interview
story of chigasaki moana
NPO法人もあなキッズ自然楽校
理事長 関山隆一
熊澤酒造株式会社
代表取締役 熊澤 茂吉
みまもる仕事

ちがさき・もあな保育園が描きたい未来とは?
はじめるきっかけ、企業主導型保育について、二人で語り合いました。

場所:茅ヶ崎市香川 熊澤酒造
インタビュー実施日:2018.3

PROFILE

イラスト
イラスト
関山

関山 隆一/ NPO法人もあなキッズ自然楽校 代表理事

1971年神奈川県生。1998年ニュージーランドに渡り国立公園にて現地ガイドとして働く。その後パタゴニア日本支社を経由し、2004年に帰国後アウトドアオペレーターの事業を立ち上げ、2007年NPOもあなキッズ自然楽校設立(2009年法人化)。
森のようちえんや自然体験活動を通して、長期的な子育て支援環境の確立及び地域に根差した実践を行っている。現在、NPO法人森ようちえん全国ネットワーク連盟 理事として日本の森のようちえんの普及活動に力を注ぐ。

熊澤

熊澤 茂吉/ 熊澤酒造株式会社 代表取締役

神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部に入学し、庭球部に所属、副主将を務める。卒業後、米国留学を経て祖父が経営していた熊澤酒造を継ぎ、日本酒の新ブランド「天青」、地ビール「湘南ビール」などを開発。
6代目蔵元として茂吉襲名。古くから存在していて価値が無くなってしまいそうなモノに、新しい魂を入れ甦らせることを、公私共にライフワークとしている。

二人の出会い:

関山: 茂吉さん、今日はよろしくお願い致します。早速ですが、この秋に「熊澤酒造株式会社」と「ショコー産業株式会社」と、私たちが運営する「もあなキッズ自然楽校」が連携して開設する企業主導型保育園「ちがさき・もあな保育園」について、二人でお話できればと思いましてお時間いただきました。
まずは、我々「もあなキッズ自然楽校」のことはいつ頃から知っていらしたんですか?

熊澤: そうですね、大磯の保育施設を知ったのが最初だと思います。
「1668」というコワーキングスペースや大磯農園をやっている「NPO法人西湘をあそぶ会」https://www.seisho-asobu.jp/aboutの原くんから話を聞いて。今度1階の空いたフロアに保育園が開園すると。そこで、“森のようちえん”というスタイルの保育園について知って。それがきっかけですね。

関山: はい、認可小規模保育「こびとのこや」https://kobitonokoya.com/ですね。これまでは横浜市内をベースに保育事業を展開してきたんですが、大磯町とのご縁もあって2015年にはじめて湘南エリアで開設しました。

熊澤: そこから、その原くん達と一緒にやっている“暮らしの教室”で、関山さんに何度かお会いするようになって。でも、しっかりお話するようになったのは、小田原で無農薬のお茶摘みに参加したのがきっかけでしたね。

関山: そうでしたね笑。朝から昼過ぎまでひたすらお茶を摘むという作業の中で、お隣同士で。
そこで、お互いの子育ての感想を話したり、いろいろとお話する機会になりましたね。

photo1 :インタビューはちがさき・もあな保育園と同じ敷地にある熊澤酒造のテラス席にて。

職場に近い場所に保育園:

関山: 茂吉さんは、企業内保育園については以前から興味を持たれていたんですか?

熊澤: ずっとやりたかった、というわけではないんです。あるとしたら、原体験として以前訪れたことのあるパタゴニアの本社かもしれません。託児所と学童保育が併設された事務所で、その光景がすごく良かったんです。子供達の空間が敷地の中央、中心にあって、オフィスやショップはその周りにあるというような。パタゴニアの企業としての哲学や、商品やサービスを提供する際のスタンスに共感することが多くて、それで見に行ったんです。

関山: カリフォルニアのベンチュラですね。私も前職がパタゴニアだったので、創業者のイヴォン・シュイナードとも会っていますが、彼らは本当に働く環境を大事にしてますよね。子供たちを安心して預けられる場所を会社の中につくってあげることで、親たちも仕事に対する気持ちももちろん変わってきますよね。

熊澤: それから熊澤酒造も、少しずつ家庭を持つスタッフも増えてきて。少し前に、女性スタッフに相談されたんですが、子供を保育園に預けることができたら、今年もスタッフとして働きたいと。ただ、実際に申請をして自治体側で審査を行い、結果が出るまではわからない、と言うんですね。会社としても働いて欲しい、本人としても働きたい意思もある、でも希望の保育園に預けることができなかったら、働くことを諦めないといけない。 

そういう現実を知る中で、少しずつ、『これは会社として保育園を持てたらいいな』と思うようになりましたね。

関山: 今は待機児童の問題が大きいですからね。今回、内閣府の<子ども・子育て支援新制度>という制度を利用して【企業主導型保育事業】の一環として、ちがさき・もあな保育園をスタートさせます。この制度の大枠は“多様な就労形態に対応する保育サービスの拡大”と“仕事と子育てとの両立に資すること”が目的として、実施されている事業なんです。待機児童問題の解消とともに、私たちとしては園と、子育てをする保護者の方々が相互に納得し合って、直接契約できる点に価値があると思っているんです。園としては我々の保育方針を承認いただけて、保護者として納得行った上での相互の関係性を結べますから。
自治体を介してしまうと、どうしても第一希望・第二希望という選択肢の中から、最終的にはどの園に預けることになるのか最後までわからない状態に。それがこの企業主導型保育事業の園では、企業で働く従業員を第一に子どもたちをお預かりすることができます。

熊澤:
そうですね。今回もあなキッズと連携することで、スタッフの子育て環境をサポートできるということはもちろん、”森のようちえん”というスタイルで、子どもたちの自主性を大事にする保育を実践する園を我々企業側が選べるということが非常に良いことだなと思っています。

この茅ヶ崎の内陸部の豊かな自然の中で子供たちがのびのびと成長してくれたら、そう思っています。

photo2 :古民家を移築して作ったレストランなど、古いものを大切にする店づくりを展開する茂吉さん

みまもる環境:

関山:もなあキッズでは、子ども達をできるだけ自然の中に置くことが、子どもたちが本来持っている「生きる力」を引き出す上での最良の環境だと考えています。

その中で、ここまで“教えて育てる“という考えをもつ教師や保育者たちが今だに日本には多い状況にあります。しかし、本来は子ども達が持っている資質を活かす、そして私達は子ども達に対して尊厳をもったまなざしにて見守ることが大事だと思っています。

茂吉さんが考える子育てのルールってありますか?

熊澤: 我が家にも二人の子供がいるんですが、うちの場合は絵本の読み聞かせをする時間を大切にしていました。その理由は2つあって、1つは寝る前に、膝の上に乗せてゆっくりと絵本を読む時間を通して、子ども達が、絵本そのもののストーリーに興味を持ちつつ、あたらしい世界を知るという体験になる。そして2つ目が、物語を通して感情の豊かさを形成するのにとても良い影響があると聞いています。親が子ども達に楽しんでもらいたいので、母親が感情を込めて読んであげることで、泣いたり、悲しんだり、笑ったり、感情のものさしをベース・価値観を形成する時期にとても良いんですよね。

関山: それはいいですね。子ども達が日々の暮らしの中でさまざま体験をしながら、その中でいろ いろな感覚を成長させていく。僕ら保育者はそういった環境づくりを用意してあげることが大事だと 思っています。

熊澤: まあ、読みながら親の方も途中で寝てしまったりするんですが。笑もあなキッズの保育方針として、園から飛び出していろんなところに出掛けていきますよね?
あれは、どういう事なんですか?

関山: 横浜でも大磯でも、とにかく毎日子ども達は外に出掛けます。外に出ると、雨が降った翌日は大きな水たまりがあったり、秋になれば落ち葉のじゅうたんがあったり、とにかく五感で感じる自然のアトラクションの宝庫ですよね。その1つ1つが、子ども達にとてもいい刺激を与えてくれるんです。子ども達は日々多くのことを感じ過ごしています。そして、子ども達は本来の「生きる力」という資質を持って育とうとしています。

お酒も自ら発酵していくものですよね、先ほどの見守る話でも申し上げた通り、子ども自らが持つ資質を最大限活かされる状態や環境を私たちが整える。よって私達が何かをしてあげるのではなく、その自らが育とうとしている状態を“丁寧なまなざしを持ってみる”ということだと思っています。日本酒つくりも保育もそこに共通するものがあると思っています。

熊澤: そうですね。日本酒はまさに毎年の湿度や気温でも変化していきますからね。

そういえば、以前BSの番組でデンマークの森のようちえんのプログラムを見たんです。
北欧では小さい子どもも外で昼寝させたりしていて。とにかく、自然と一体になっていますよね。

関山: デンマークは森のようちえんの発祥の地です。2年連続でスタディ・ツアーに行ってますが、保育園でもどこでも、子ども達は寝袋持って、その辺で寝ちゃうんですよね笑 乳母車も同じような感じで。少しでも長く太陽を浴びていたい、そういう環境だからなんですが。

自然というものが近くにあって、常に自然と向き合いながら暮らしているのがデンマークの良さですよね。

photo3 :ちがさき・もあな保育園が建てられる建築予定の空間にて。この場所はプールとして活用されきた。

100年先を考える:

関山: 熊澤酒造は明治5年に創業、湘南唯一の蔵元として良質な日本酒を作られていますよね。最近ではクラフトビール、そしてパンなど、酵母の働きを活かしたさまざまな商品も提供されています。今後の展開はどのように考えられていますか?

熊澤: 基本は蔵元なので、お酒を作るのは冬だけなんです。それを1年中醸造技術を活かせないか、というところから、ビールづくりを初めて、その醸造過程でアルコール飲料以外も作れないか、というところからパンへと。ある意味副産物なんです。

会社としては、今後100年、200年続いていく企業として湘南を代表する、それにふさわしい企業になっていきたいですね。なのでここで育つ子ども達は、お父さんお母さんが近くで働いているのでその姿を見ることができると思うんです。それって、すごく良いことだなと。

職人として働く姿を見ることで、お酒をつくる仕事に小さい頃から興味を持ってくれるかもしれない。
親が担っていたパートを、その子ども達が引き継いでいく。そんなことが起こったら、いいですね。

企業が長く存続すれば、地域でかなりのことができると思っていて、その歴史の1ページを一緒に作っていく、ここで育った子ども達がこの地域のことを好きになってくれたら嬉しいです。

関山:それはいいですね。熊澤酒造はもちろん、ショコー産業さんでは小学生向けのスミングスクール・テニススクールもやってますし。この場所と一緒に育つ場所になるといいですね。

僕自身は熊澤酒造さんのお店を見て、古民家を移設して活用したり、古いものを活かしたお店づくりなど、感銘を受ける点もすごく多いんです。

今回の「ちがさき・もあな保育園」も県産材を活用した、木の香りに包まれる空間を目指しています。そういった価値観も、子ども達に少しでも伝わるといいですね。

茂吉さん、今日はありがとうございました!ぜひ素敵な園にしていきましょう!
これからもよろしくお願い致します。

熊澤: こちらこそ、よろしくお願いします。

photo4 :(左)毎週無農薬の野菜の販売も行なっている。子供達の給食もこの野菜を使うかも!(右)保育園へ続く小道の風景。まさに森のようちえん

熊澤酒造株式会社
湘南ローンテニスクラブ 湘南スイミングスクール